文字の墓場

文字を書く練習だったり、読んだ本の感想を書いたり、そんなブログにあこがれます。

高野秀行『アヘン王国潜入記』

アヘン王国潜入記 (集英社文庫)
アヘン王国潜入記 (集英社文庫)
集英社


数年前に買ったKindleをずいぶん長いこと放置していました。おかげで電池は切れ、誰の書籍をダウンロードしていたのか忘れていた始末。充電を終えて中身を確認してみると、高野秀行さんの『アヘン王国潜入記』が目に留まりました。


この本はミャンマーにあるゴールデントライアングル(黄金の三角地帯)と呼ばれている麻薬栽培地帯を舞台にしています。この地帯で生産されているのはアヘン、さらに精製も行っておりヘロインや非合法のモルヒネも作っているそうです。アヘン系の麻薬と言えばミャンマー、という感じですね。


ゴールデントライアングルはミャンマーの他にタイとラオスも含まれているのですが、この2国はアヘンの生産量が少なかったそうです。それに加えてタイとラオス両国の政府がアヘンの生産を規制し、2国のアヘン生産量は激減しました。しかし激減したのは1980年代の話なので、2019年現在どうなっているかは不明です。


ミャンマーもタイとラオスにつられるかと思いきや、なんと生産量は右肩上がり。ゴールデントライアングル内でもっともアヘンを生産しており、事実上ミャンマーの一人勝ち状態。しかしミャンマーであれば、どこでもアヘンが育つという訳ではありません。ワ州という場所だったからこそ、あれほどまでの生産量をあげることができたのでしょう。日当たり、水、気候、どれをとっても最高!ワ州はアヘンを育てる条件が整っていたため、良質な麻薬が作れていたのです。


ここまで読み進め、ふと疑問が浮かびました。「政府は何しとるんだ?」という疑問がもたげてきました。

ミャンマー政府がアヘン生産を規制しなかった理由

タイとラオスの政府は、アヘンの規制に成功しました。前述で述べたとおりこの2国はアヘンの生産量が芳しくなく、利益もそれほど上がっていなかったのです。そのため政府は「このままゴールデントライアングルのイメージを持たれ続けてもいいことないしなぁ……よっしゃ、いっそのことアヘンを規制して国際社会の評価を上げようぜ!そうすりゃ海外からの援助も投資も期待できるじゃん!」と考えたのです。


ミャンマー政府も追従するかと思いきや、そうはいきませんでした。なぜならワ州は反政府ゲリラが支配しており、ミャンマー政府の手が及ばない場所だったからです。ミャンマー政府が「ケシの栽培をやめろ!アヘンを作るな!」と言ったところで、反政府ゲリラが素直に従う訳もなく、アヘンの生産を続けていきました。


ワ州は土地の関係から収入を得るための農作物を作ることが困難です。さらに言うと、住民たちが食べるための作物も危うく、どうしてもアヘン生産で収入を確保しなければならない状態でした。反政府ゲリラ軍はアヘンやヘロインに税金をかけ、利益を上げて生きていたのです。

高野秀行さんはアヘンを栽培しゴールデントライアングルへ

高野秀行さんはそんなゴールデントライアングルで「ケシの実を栽培してアヘンを収穫してみたい」と思い立ち準備を進めていました。Wikipediaやウェブ記事では感じ取れない「生」のゴールデントライアングルを取材しに行ったのです。


日本ではケシの実を栽培することも、アヘンを作ることも許されてはいません。麻薬の存在は絶対的な悪です(大麻の扱いはこれから先どうなるかはわかりませんが、現時点では悪と言えます)。しかし麻薬を作らなければ生きていけない、生活していけない人がいるのも絶対的な事実。この本を読むにあたって、私は善と悪という概念を一時的にごみ箱へとダンクシュートしました。


この『アヘン王国潜入記』はそういった感情を入れて読むシロモノではなくレポートとして淡々と読む方がいいでしょう。高野秀行さんが何を伝えたいかがわかりやすいと思います。「〇〇という人物が××のルートを使って麻薬をうんぬんかんぬん……」という冷静な情報よりも、ケシを栽培しアヘンを収穫している人たちがどのような生活を送っているのか、何を食べて飲んでいるのか、どんな遊びが好きかといった人間臭い日常が詰まっているのがこの本です。


ちょっと書きたいことがとっ散らかってきたので、次の記事でまた書きます。